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人間らしい生き方

 男女同権意識の高まりにつれ、労働問題や夫婦別姓などさまざまな議論が盛んである。生命誌研究館の中村桂子さんは言う。
「性をこれしかない与えられたものと取ってしまうと、男女差に宿命のようなものを感じて息苦しい。どちらが優れているかどうかという、むなしい議論が起きる。ところが生物を見ると、男女(オス・メス)が存在するという生き方は、長い試行錯誤の結果、選び取られたものだということが分かる。
 そもそもこの世に生物が登場したときは、性などなかった。バクテリアは現在でもそうだが、分裂で自分と全く同じ性質のものを、効率よく沢山生み出す。環境の変化が起きたときは、どれか一つでも残ればよいというわけだ。ここには、個性という考え方はない。
 一方、性をつくって、自分と全く同じではなく、新しい性質を持った子孫を造り出す方法が生まれた。この結果、一つ違った個体、すなわち多様性が生まれ、異なる個性を持った生き方が始まった。このことで環境への適応力も高まった。明治以来の近代化によるシステムを固定して男女を論ずるよりも、35億年かけた生き方の選択である『2つの性』を活かすシステムを構築しようと努力するほうが、人間らしい生き方だと思う」

余力のおすそわけ

 アジアの医療向上に尽力してきた岩村昇さんが、ネパールのある村で一人の老女が倒れているのに出会った。早く病院につれて帰りたい。ちょうど通りかかった若い運搬人が彼女を3日間担ぎ、3つの山を越して岩村さんらが基地としている病院に運んでくれた。
労賃を倍はずんでお礼をしようと財布を出しかけたところ、ボロボロの服を着た運搬人に「ドクター、馬鹿にしてくれるな。おれはどんなに貧乏してもこの3日間、金儲けをしようとしてこのばあさんを運んだのではない」と叱られた。
「では何のために?」と聞くと、「共に生きるために。生きるとは弱き者と分かち合うことだ。だってドクター、おれは若い。おばあさんは歳をとっている。おれは健康で体力が余っている。おばあさんは病気で体力をなくしている。おれに余っている若さと体力を、それをなくしているおばあさんに、長い一生の旅路のほんの3日間、おすそ分けしただけだ」と答え、裸足の足の裏から出た血の跡を地面に残して去っていったという。
 昨今、共生とか弱者との分かち合いということがよく言われているが、それは何も特別なことや難しいことではなく、この若者のような気持ちを誰もが持つことである。

暗いトンネルの中で出口の明かりが見えた

 中学一年生のときに不登校になったことがある大学生の女の子の言葉。
「たまに『学校に行ってみる』と言うと、父親は学校の前まで車で送ってくれた。しかし、学校の前まで来ると足がすくんで車から降りられない。そんな私を悲しみと悔しさを持った目で見ながら、結局家まで引き返し、遅れて仕事に行く。その父親の姿を忘れることができない。その後、両親の奔走で高校へ進学し、何があっても両親は私を守ってくれるから、もう少し頑張ろうという思いで高校に行き始め、三年間ほとんど休まずに通うことができた」
 中学三年生の息子が不登校になった母親は、「暗いトンネルの中で出口を捜して一日でも早く光が見出せたら、と私も息子も苦しんでいました。しかし、人間は明日のことは誰も分からない。自分だけトンネルの中にいると感じたのでは重荷だと思えてきて、息子の考える力を信じてトンネルを払いのけ、校長先生や担任に『一人で食べていけるだけの生活力があればいいと思います』と伝えた途端に胸のつかえが下りた」と語る。
 教育を受けたい人に受けさせる義務はあるが、受ける義務はない。
 学校にいかなければならないという義務感を捨て、何があっても子供の生きる力を信じてやることだ。

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